ミュージカル ゴヤ-GOYA-を観てきました

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日生劇場で上演中のミュージカル「ゴヤ」を観てきました。

主演は今井翼さん。作はG2さん、演出は鈴木裕美さん、音楽は清塚信也さんの完全国産オリジナルミュージカル。

私の愛する小西遼生さんも出演されております。こりゃ期待できそうと開幕を待っておりましたよ!

 

私はもともと、西洋絵画にはあまり興味がありませんでした。

有名な絵はいろんな機会で目にして、一般常識的には知ってましたけどね。

ゴッホの「ひまわり」とかさ。

しかし数年前、ドイツ文学者の中野京子さんが書かれた「怖い絵」を読んで以来、がぜん興味をそそられまして。

ゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」も、その「怖い絵」で紹介されてました。

古代ギリシャの叙事詩がモチーフとは思えない奇怪なこの絵は、それ自体が「怖い」んですが、中野京子さんの読み解きによって別の怖さも感じたのよね。

ゴヤは戦場の血の海で、異端審問の拷問室で、人間が人間をやめる瞬間を何度も見てきた。
いっさいの音が欠落した中で見る凄惨なその場面は、ゴヤの眼に焼き付き、目を剥がしたいほどの痛みと怒りを生じさせたに違いない。
彼は描いて描いて描きまくり、視て視て視まくったが、それがサトゥルヌスへと凝結したのである。

中野京子著「怖い絵」作品10「我が子を喰らうサトゥルヌス」より引用

この絵に結実した、ゴヤが見た闇ってどんなものだったんだろう。

その生きた時代背景ってどうだったんだろう?

ミュージカル「ゴヤ」にはその答えの一端がありました。

あらすじ

18世紀スペイン。野心に満ちあふれる若き画家ゴヤ(今井翼さん)は、宮廷画家になり出世することを望んでいた。

そのため、親友・サパテール(小西遼生さん)のいる故郷サラゴサを離れ、妻ホセーファ(清水くるみさん)と共に首都マドリードへ移り住む。宮廷画家である義理の兄バイユー(天宮良さん)に仕事を世話してもらったのだ。

その頃、マドリードの宮殿ではフランスから嫁いできた皇太子妃マリア・ルイサ(キムラ緑子さん)が政治に口を出したり浪費したりと好き放題。

貴族テバ伯爵(山路和弘さん)はその命令に服従しつつ、自らが実権を握るチャンスをうかがっていたが、若い軍人ゴドイ(塩田康平さん)に取って代わられてしまった。

謙虚さや従順さを持たないゴヤはあちこちでトラブルを起こしながらも、貴族の肖像画で名声と金を得て、さらに上を目指していた。
その出世欲に目を付けられ、テバ伯爵に利用されてしまう。

テバ伯爵の策略は、王妃となったマリア・ルイサが嫌っている大富豪のアルバ公爵夫人(仙名彩世さん)を貶め、邪魔なゴドイをマリアから離そうと企んだものだった。

その騒ぎのあと、ゴヤはほとぼりが覚めるまでと有力者の肖像画を描く名目で港町カディスへ行かされる。しかしそれは実はフランス密使との密談のためのもの。護衛としてつけられた弟子に扮したふたりは密偵だった。

サパテールはフランスで起きた革命の状況などを伝え、今カディスは危険だと止めるが、ゴヤには断ることが出来ない。

旅の途中で毒を飲まされたゴヤは、一命は取り留めるが聴覚を失ってしまう。
絶望し絵を描かなくなってしまったゴヤの元に現れたのは、アルバ公爵夫人だった。

彼女はゴヤに絵を描かせようとするが、ゴヤは描けず逃げ出してしまう。

街へ飛び出したゴヤが見たものは、それまでは見えていなかった「人間のほんとうの姿」だった───

ゴヤはスペイン最大の画家。

そうなったのは野心からの処世術によるものでも、絵筆の腕前だけによるものでもない。

「人間を視る」ことに開眼し、自己の・他人の内面を探究し尽くしたことによるものだというのが、このミュージカルで表現されていることのひとつだと思います。

 

スペインってなんとなく、楽天的・情熱的で華やかってイメージがあったんですけどね。

実は厳しい気候条件で、歴史的に闇を抱えてもいるってことを、「怖い絵」を読んで初めて知りました。

無能な王族、権力争いと賄賂にまみれた貴族たち、というのは革命時のフランスだけじゃなかったんですねぇ。

 

ストーリーテラーは山路さん演じるテバ伯爵、南ヨーロッパ情勢の説明役は遼生さん演じるサパテール。

史実とは違うところがありますが、そうすることで話が飲み込みやすくなってると思います。

説明が多いのは時代背景的に仕方ないよね~

あ、でも呼び名については説明がないので最初とまどったw

ゴヤはフランシスコの愛称でパコ、サパテールはマルティン、ホセーファは愛称でペパと呼ばれてました。

ゴドイもマリア・ルイサからはマヌエルと呼ばれてる。

翼さんは初めましてでした

今井翼さんを舞台で観るのは初めてでした。一幕のギラギラした野心的な顔つきから、二幕はじめは憔悴し煤けた表情に。

開眼し版画集を出版するころには、俗世という脂が洗い流されたように清廉なお顔にと、ゴヤの変化を表現されてて素晴らしいです。

カーテンコールでは本来の艶も取り戻してて、役者だなーーと感服いたしましたw

フラメンコを披露するシーンももちろんありまして、その迫力にも驚きましたが、なによりステップの美しさ!!

弟子に扮した護衛(実は密偵)をふたり従え、怪傑ゾロみたいな帽子とマントで行き来しますがまーーーそれが素晴らしい!

脚がどんな風に動いても上半身がつられて動かない。すごい!

ゴヤって自分本位で野心家、人の忠告は聞かないし、結構な困ったちゃんなんですよ(さてはオマエB型か((それは私

しかしなぜか見放されず尽くされてたりする。

翼さんが男くさくも愛嬌があり憎めないゴヤを演じているので、説得力がありました。

なんか無性に可愛いのよね、翼さん(笑)

 

遼生さんのサパテールはまるで明るいアンリ(別の作品を持ち出すな)。

この人もう40近いのにまだ少年ぽい声が出るの・・・大好き・・・って思いながら観てました。ウザいファンですごめんなさい。

一幕はじめの明るい青年から、ゴヤやホセーファとの手紙を読み喜んだり驚いたりする顔、国を憂いてどんどん苦悩していく表情の変化は目を離せません。

わがままなゴヤに言い聞かしたり、「おい何を言い出す」的に「パコー?」って呼びかける時の声色と間がサイコーよ!(笑)

ゴヤが情熱ならサパテールは理性、ゴヤが自己ならサパテールは社会。

親友でありながらそんな対比にも見えます。

ゴヤとサパテールの関係について

現実に残っているゴヤからサパテールに宛てた手紙に、「君さえいてくれたら何もいらない」的なことが書かれていて、そこからふたりの間に恋情があったのではという意見もあるとか。

しかしゴヤは実際に結婚し、ひとりしか育ち上がらなかったとはいえ何人も子どもを作っている。

私にはゴヤとサパテールの間のものは、恋とは思えないんですよね~。

 

ネタバレしちゃうけど、このミュージカルでも、危険なカディス行きを必死で止めるサパテールを振り切るためか、ゴヤが

「お前がいつまでも独身でいるのはなぜだ、そんなに心配するくらいならさっさと身を固めてくれればよかった」

って感じのことを言い放ちます。

まるでサパテールが、ゴヤに恋してるから結婚しないでいるかのように。

サパテールに甘え、精神的によりかかっているのは自分なのにね。

うまいなぁと思うのは、この言い回しなんですよね。

「おまえそうなんだろ。お互いハッキリと言わないでいるけど、そうなんだろ」

というぼんやりした感じ。

ハッキリと「俺が好きだから女と結婚しないんだろう」とは言わないことで、観ているこちらにはなんとも言えないモヤモヤが深く残る(笑)

 

私には、ここはゴヤの「この時点での人間洞察の浅さ」を表したものと感じられます。

サパテールにはゴヤに対して恋心はありません。それは強い友愛であり、親愛なんですよ。

だからこれを言われた時のサパテールには、驚愕しかないと思う。

このミュージカルでのサパテールは周辺の国の情勢に詳しく、自由改革のために身を投じてもいる。つまり危険なわけですよね。

結婚して家庭を持ったら、その活動に足かせとか心配ごととかが生まれてしまうじゃないですか。

独身でいるのはそのせいなのではないか。

しかし自己中心的で視野の狭いこの時のゴヤには、それがわからない。

献身的であり自分を包み込んでくれるのはそれが自分に対する恋情だからだ、としか理解できなかったのではないのか。

聴覚を失い、人間の業、喜び、その内を描くことに開眼したゴヤ。

そのゴヤが、まっ先に絵を見せたかったのがサパテールだったのは、彼の想いが自分の考えていたような短絡的なものでなかったことが、ハッキリと分かったからではないか。

そんな風に思います。

キャストが好きすぎてツライ

鈴木裕美さんの演出作はだいたいそうなんですけど、好みじゃないキャストがいないんです。

どうかなと思っててもだいたい、終演後には大好きになってる(笑)

 

ホセーファ役の清水くるみちゃんは可愛らしい中に芯の強さを感じさせる佇まい。歌声が透明でものすごくステキ!!

舞台は乱鶯からけっこう観てるんですが、単なるお嬢さんじゃない役のほうが多い印象。今後も楽しみ。

ぐるぐるーぐるーとフレーズが回る「螺旋階段のタンゴ」はすり込まれること請け合い。

「かいだん♪」の歌い方とポーズがすごく好きです(笑)

序盤に歌われるこの曲が、終盤にまた調子を変えて歌われるんですが、その時には意味合いが全く違う。

ゴヤの絵を都合良く利用しようとする人たちからゴヤを引き離す「ひとりの画家」と共に、表現力の豊かさを感じました。

 

ホセーファの兄、宮廷画家のバイユーは天宮良さん。

なぜかヤクザ役でお見かけすることが多いけど、イイ声よね~ホレボレする!

歌声の強さが、権威を重んじるバイユーの性格とピシッとハマってます。

天宮さんも、もっと舞台で観たいな~

 

テバ伯爵は山路和弘さん。いやもう本当に大活躍すぎて拝みたい。歌って踊って指揮棒ふって(笑)

登場時のじいさまぶりが冗談のようですわ!

いい声、明瞭な滑舌、漂う色気はもちろんのこと、ゴヤとは違う洗練された野心と狡猾さがステキ。

キムラ緑子さん演じるマリア・ルイサとのやり取りは極上です(笑)

 

緑子さんのこういう役は初めて観たかも。

フェードルのエノーヌのようなシリアスな古典もうまいし、けっこうなコメディエンヌでもある緑子さん。

だいすきなんですよね~。

お歌もなかなかの迫力だし、山路さんとの丁々発止はニヤニヤして観ちゃいますw

特別悪辣なわけじゃなく、普通に愚かなんですよ、マリア・ルイサ。

普通程度に愚かな女が権力を手に入れたらこうなるわそりゃ。

若い男を囲い政治に口を出し影響力を高め、豪華に着飾って権力を誇示する。

国を統治するような知性と度量がなかったのが彼女の不運でした。

 

マリア・ルイサの寵愛を受けて権力の座に躍り出るマヌエル・ゴドイは塩田康平さん。

若い(笑)

野心満々だけどこちらも詰めの甘さが残念な軍人。

セクシーに演じてらっしゃいます!

ちょっとした受け答えに周囲を軽んじてるのが出ててすごくイイ。

マリア・ルイサのスカートに潜り込んだ後、あるモノが歯に挟まったジェスチャーをするのは、演出を付けられてなのか自発的になのか知りたいわ(笑)

民衆にボコボコにされた後の一喝は迫力がありました。

 

そして今回初めましての、アルバ公爵夫人仙名彩世さん・・・

だ い す き(笑)

登場時、ゴヤの描いた「白衣のアルバ女公爵」そのものでちょっと笑ってしまったw

絵にも描かれている白い愛玩犬を連れて登場するんだけど、お友だちが「モップに見えた」と言ってて、それ以来 私にもモップにしか見えません(笑)

外連味たっぷり、というか外連味しかない(言い切った)アルバ公爵夫人を、美しいダンスと歌声で振り切って演じておられます。

間や言い回しがすっごい良くて、仙名さんでがっつりコメディミュージカルが観たいな!と思いました。

裕美さんお願いします(私信((届きません

実際のアルバ女公爵は国王を超える大富豪で、ゴヤが聴力を失ってから知り合い、恋人だったと言われてますが、このミュージカルではそうは描かれてませんね。

あくまでも才能を腐らせるな、とハッパをかける役どころ。彼女がいなければゴヤは本当の画家として開眼するきっかけを得られなかった。

とても重要な役どころでした。

 

アンサンブルさんも大活躍。特に可知寛子さん、群舞やコーラスの時に、ものすごいお顔してたりするんで見逃せませんw

ゴドイにツッコミを入れる福麻むつ美さんの、戸惑いつつの自然なツッコミも良き(笑)

アルバ公爵夫人のお付き4人衆が妙に偉そうだったり、教会の丸天井画のことで揉めてる時に端で並んでる神父達が憤りを表してたりと、ひとりひとりお芝居が細かいこまかい。

フランス革命や民衆の暴動はすごい迫力だし、宮廷人が権力者を(表面上)讃える時の、本心が透けて見える表情など、見ておきたいところがたくさんで困るw

フラメンコギターとお歌も血が沸き立つようでステキでした!ジプシー・キングス聴きたくなるよね(笑)

ダンスは一般に連想する真っ赤な長いドレスを着て脚を踏みならすものとは違って、もっと根源的・土着的なエネルギーを感じるものでした。

本当に場面場面で見たいところが多いし、曲も歌詞も歌唱も素晴らしかった。

これ映像化しないんですかね??放映や配信でもいいけど、出来ればDVD化して欲しい~

 

そういや、パンフレットやフライヤーのビジュアルと、実際の舞台での衣装や雰囲気も乖離しすぎてるのよね!

これだと公演が終わったら、舞台を思い出すトリガーにはならないじゃありませんか。

やはり映像化してもらうしかない・・・!!

松竹さんお願いします。いやマジで

※追記
WOWOWで放送が決定しましたー!!

 

というわけで楽しんでおります、ミュージカル「ゴヤ」。

東京公演は2021年4月29日まで日生劇場で、名古屋公演は2021年5月7日から9日まで御園座で上演です~

出かけづらい状況ではありますが、劇場って別に向かい合っておしゃべりする場じゃないしね。

とても良いのでぜひ!

 

追記:東京公演は東京都の緊急事態宣言発令により4月25日~29日の公演が中止になりました。

無念。

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