舞台「最貧前線」を観てきました

内野聖陽さん主演の舞台「最貧前線」を観てきました。

いや~すんごく良かったです。

内野さんが出ていて良くなかった舞台は今までありませんでしたけどね。

今回もきっと・・・と思ってましたが、期待以上でした!

2ヶ月にわたる全国公演

私は世田谷パブリックシアターで観たんですが、「最貧前線」は茨城県水戸市にある水戸芸術館の記念事業公演なんですね。

公演のスタートは8月の末、横浜から。その後豊橋市、水戸市、上田市、新潟市、世田谷ときて、10月後半は西宮市、そして神奈川へ戻り大和市で最終公演が行われるそう。

それぞれの地域での公演回数は少ないけど、2ヶ月にわたって全国を回るというのは大変なことかと。

文化芸術振興事業でもあるようなので、各地で学生さんたちも観たかな?

私は息子に見せたかった、と感じた作品だったんで、各地で若い人たちに観る機会が作られたなら、良いことだと思いました。

「最貧前線」のあらすじ

昭和19年、太平洋戦争末期。
横浜港では、福島の漁船・吉祥丸が出航の準備をしていた。
しかしその準備は魚を獲るためではない。

ほとんどの軍艦を沈められた日本海軍は、来襲するアメリカ軍の動静をなんとか探ろうとしていた。
そのため、普通の漁船を駆り出して見張りをさせようと考え、吉祥丸はその「特設監視艇」の役目を仰せつかったのだ。

特設監視艇となった吉祥丸を率いるのは海軍の士官である大塚(風間俊介さん)。
通信長の柳(溝端淳平さん)、砲術長の大堀(蕨野友也さん)と若い水兵は、慣れない漁船の揺れに苦しみつつ、なんとか任務を果たそうと必死になっていた。

吉祥丸には元々の船長である菊池(内野聖陽さん)、無線士の千田(佐藤誓さん)、漁労長の及川(ベンガルさん)をはじめ、まだ10代半ばの見習いのはじめ(前田旺志郎さん)も乗り込んでいる。

実戦経験はあっても、海で暮らしたことがない軍人たちは、鯨を敵潜水艦と間違えたり、嵐の予兆を察知できなかったりと、海のプロである漁師たちと対立してしまう。

しかしやがて、軍人たちも漁師の見識と技術に一目置くようになり、互いの間には徐々に信頼関係が芽生えるのだった。

戦況はどんどく悪くなり、急ごしらえの武器を積載した木造漁船でしかない吉祥丸も、海の最前線というべき南方の海域に派遣されることになってしまう。

最新鋭の武器を搭載した戦闘機の飛来に怯えながらも、生きて帰ろうとする漁師たちと、責務を全うして死のうと考える軍人たち。

はたして吉祥丸は、無事に帰ることができるのか────

何を指して「最も貧しい」のか

最貧前線とは珍しい語感よね(笑)そもそもそういう言葉はなさそうだし。

ネタバレしちゃうけど、このお芝居の中では、誰も死なずに帰ってきます。
漁師さんたちのおかげでね。

でも実際には、駆り出された漁師さんたちも、任務にあたった軍人さんたちも、そのほとんどが帰ってこられなかったそう。

そりゃそうだよね、木造の漁船でよ。すっごい南の海まで、武器らしい武器も、防護するものもなく行ってるんだもの。

いったいどれだけの人が、不本意に命を落としたのかと考えると、暗澹たる気持ちになりますわ。

 

お芝居を観て最初に思ったのは、何を指して「最貧」なのかってこと。

木造漁船はそりゃ貧しい感じだけど、この場合登場人物に貧しさは感じないんですよ。

裕福じゃなくとも、自然と共に生きるスケールの大きさ、自然への畏怖を知っている潔さは「貧しさ」とは無縁。

貧しいのは負け戦をやめられず、合理性を失って突き進んでいた、当時の日本という国の「情況」だったんじゃないかしらと思いました。

そしてね、今現在。私たちの国の情況、貧しくなってない?
「貧すれば鈍す」って状態に、なってない?

と考えてしまったわ。

死生観の温度差で浮き上がる、滑稽さ

舞台はすべて船の上、海の上。

そこで軍人チームと漁師チームがやりあったり、助け合ったりするんだけど、まず強く浮き上がってくるのが「死生観の温度差」ね。

犬死にだとしても、求められた責務を全うし「潔く死ぬ」のを高潔と考える軍人と、

「絶対に生きて帰る!そんでまた魚を獲る!!」

っていう漁師さんたちの違い。

明日も生きていく、そのために今日出来ることはなんでもするし、方法を考える漁師さんたちには、軍人チームの諦念はない。

両者の温度差から立ち上るのは、「潔い死」などという言葉で彩られた軍部の滑稽さでした。

 

漁師チームのおっちゃんたちは、学も品もないけど生きるための一番たいせつなこと、

「生きていくんだという意志」

が身体にも魂にも深く刻まれているのね。

それは、領地の取り合いだとか国の威信だとかで命のやり取りをしている軍人にはない潔さ。

生き物(魚)を獲って食べる、つまり他の命を自分に取り込んで生きている以上、自分の命はひとつの”点”ではない。という感覚というか。

内野さん演じる船長が、風間さん演じる艇長に「生きて帰る、船員も生きて帰す」ことの意味を訴えるシーンはすごく胸にきました。

見習い賄い夫の若い はじめ くんが、自分もお役に立ちたい、立派に死にたいと訴えることで、その考えの薄ら寒さが際立つところがとても印象的でした。

芸達者ぞろいで見応えありました

漁師のおっちゃんたちがね~、ものすごく魅力的なんですよ(笑)

内野さんとベンガルさんのやりとりはもう、ずーーーっと観てられる。てか観ていたい。観せて。

佐藤誓さんはあいかわらず良いお声だし。

溝端淳平さんの なーんとなくシレッとした印象の通信長もステキ。

そして船の造形も!二分割されて正面に向いたり、横向きになったりとけっこうダイナミックに動いてました。

三階建てセットは、1階席前方だと見づらかったかもしれませんね。

海と波の表現も、ときたま差し込まれる宮崎駿氏のコミック映像も、すごく効果的でした。

木造のセットの周囲を、波のようにチロチロとなめるようなライトも良かったですね~。

舞台演劇ならではの「嘘」がとっても効いてて、私は好きなテイストでした。

原作は宮崎駿氏の、たった5ページの漫画

「最貧前線」は宮崎駿氏が、プラモデル専門誌に不定期連載していた短編のひとつだそうです。

なんでも、たった5ページの漫画だったとかで、それを舞台演劇にするのも凄いんですけど、お芝居を観るとその奥行きの深さに驚きます。

そんなに長い期間の話でもなく、場面は海上の漁船の中。それなのに世界の凝縮を観ているような気になりました。

ところでパンフレットに載ってましたが、宮崎駿氏はこの漫画について、
「あと1ページあればもっとラクに色んなことができた(かも?)」
と思ってらしたそうで。

クリエイターってすごいよね。1ページで伝えられることって、とても多いものなんだなぁとしみじみ思っちゃいました。

ところで、この作品中では「戦争」という単語は全く出てこない。

漁師さん達は「いくさ」って表現するし。

なぜ戦争という単語を使わないのか、をずっと考えています。

 

 

 

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