待望の新刊。しかもわたくしの大好物である「江戸もの」。本屋で見かけたら、そりゃ買わずにはいられませんわ。
縁談の際に起こった事件で心を閉ざし、生家と家族から離れて叔父夫妻の家に暮らすちか。彼女の身に起きた事件とは?
ちかが、心に根ざす苦しみと向き合うことができるように、叔父がお膳立てしたのは「白黒の間」で、人々の不思議話を聞くことだった──。
宮部氏の作品、少年少女が主人公であることが多く、その主人公の周りには、必ず聡明で慈悲深く、正義と理屈をわきまえている大人がいます。
そうして、悪戦苦闘する主人公をそれとなく導く。
しかも「正解はこれだよ」と手のひらに載せて差し出すのではなく、自分自身で答えを見つけることができるよう、思考の手助けをする。
直接的ではない方法で。
なんと理想的な形でありましょうか。
人は愚かで惨めなものです。と、同時に強く賢いもの。
どう生きるのか、起きた出来事どもをどう受け止めるのか。
すべては自分と向き合う姿勢で決まるもの。
ちかの身に起きたことは、ちか本人に責任があるとはいえないこと。
それでも起きてしまったことはちかの心に深く、暗く根を下ろす。なかったことにも出来ないし、死んだ人も戻らない。
どうやって人を赦すのか、どうやって自分を赦すのか。
色々な人の、不思議の話を聞きながら、ちかの心は自分の事件へ向かっていく。
そうしてもうひとつ、大きな謎も解決に向かいます。
あいかわらずの巧みな構成と、心がほっこりとするやりとり。宮部氏の作品としては平均点的ですが、江戸時代こそが日本人の原風景であり、わたくしは間違いなく日本人だと満足できました。
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