舞台「首切り王子と愚かな女」を観てきました

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2021年7月4日まで、東京・パルコ劇場で上演中の「首切り王子と愚かな女」を観てきました。

作・演出は蓬莱竜太さん。

私が井上芳雄さんをハッキリ「好きな役者」として認識したのは、蓬莱さん作・演出だったストレートプレイ「正しい教室」でした。

今回も絶対イイに違いないと思ってました!期待通り良くて、ふらつきながら帰ってきましたわw

蓬莱さんには珍しくファンタジーと聞いておりまして、たしかにそうなんだけどそこはそれ、蓬莱さんですから(笑)

うふふと笑ってるうちに冷や汗をかくような感覚はそのまま。

物語に没入しつつ「でもほら、実際には劇場で席に座って『演劇』をご覧になってますよ」って思わせるような仕掛けもあり。

引き裂かれるとまではいかないけど、すんなりと居心地よくは座らせておいてくれないのがさすがというか。好きですw

あらすじ

雪深いルーブ王国は、民に慕われていた賢王バルが逝去して20年が経った。

王妃であったデンは「永久女王」として国を統治していたが、王子ナルが病に倒れて以来、そばに付き添い、城にこもりがちになっている。

国民の心は荒み、疫病など災厄が国土全体に拡がっていた。

その国の危機に呼び戻された第二王子トル。彼は母・デン女王のため、国家に背く者たちを捕らえては斬首し続けている。

その数は日に日に増え続けていた。

一方、ヴィリは母の死後、生きる目的も無くし死のうとしていた。

しかしトル王子によって死ぬことを妨げられ、侍女として生きることを命ぜられる。

物怖じせず遠慮も配慮もないヴィリと関わるうちに、トル王子の中に変化が起きる。

そんな時、トル王子が生かされていた本当の理由が明らかになり───

高度な「ごっこ遊び」を楽しむ舞台

セットはとてもシンプル。舞台に木箱を積み上げただけで、宮殿の大広間にも兵士の詰め所にも断崖絶壁にも、離島にもなる。

酒屋さんの裏に置かれてたビール箱を勝手に積み上げて遊んだ、子どもの頃を思い出しました。
(こっぴどく怒られたことも思い出したw)

想像力があれば、ひとつひとつディティールを作らなくてもそう見える。役者の芝居がそれを補完してくれる。

素晴らしい!

誰もがきっと経験があるであろう、「ごっこ遊び」の究極版。

芝居が好きな人はこういうシチュエーション絶対好きだよね!

中央に重ねられた木箱たちを、アクリルのユニットボックスが客席を上に凹状にして、とり囲んでいました。

仕切りで個室状に分けられたボックスは、役者さんの控えの間。

出番が終わった役者さんは、メインキャストもアンサンブルさんも、それぞれ自分の個室に戻ります。つまり舞台上からハケません。

個室内には私物らしきものを入れる小さなカゴとティッシュが。

楽屋の鏡前のような個室で、出演者が今上演されている芝居を観ている。

ボックスは透明なので誰がどこにいるか、客席からひと目でわかるのよ~

でも「えっ」て思ったのはほんの数分。

すぐに「そういうもの」として慣れて、芝居に没頭できるので心配は無用よw

 

一幕・二幕ともに、出演者がスタッフさんに挙手して開始を合図する。

衣装がかけてあるハンガーも客席から見え、次の出番に備えてサッと衣装をはおってる役者さんも見える。

袖スレスレを密かに、すすすと進んできた役者さんがピッと役に入る瞬間が見える。

パンフレットに掲載されていた蓬莱さんのお話どおり、稽古場をそのまま舞台に乗せたような仕様。

なんとも面白かったし感心しました!

芝居のリアルと嘘が絶妙だったキャスト陣

私ね~、ミュージカルの歌ってる芳雄さんも好きですけど、ストレートプレイの芳雄さんはより好きなんですよね~。

芝居がうまい、というより「本当がある」という感じ

演劇である以上嘘なんですけど、骨は嘘でも血肉は本当というか。そういう感じがする(伝われ

お家芸(?)の王子役だけど、ちょっと珍しい王子様。

出生に曰くがあり、離島に隔離され教育されず愛されずに育ったので、王子様というより成り上がりっぽい。

なのに妙に気品があるのはさすがよね(笑)

最初はヤなやつ~!なのにどんどん心を傾けたくなるのもさすが。

ラストにやっと「人」になれたトルは幸福だと思う。ヴィリと出会えて良かったね。

 

死のうと思ってたとこをなぜか生かされトル王子の侍女にされるヴィリは伊藤沙莉ちゃん。私は初めましてでした。

27歳なのにキャリアが18年だそうで、納得の芝居力でした~!

おばちゃん大好きになっちゃったわよ。

おチビさんなのにハスキーでドスの利いた声が迫力ある。ヴィリがすごくリアルに感じるのは彼女の力量あってこそですね!

台詞と地の文のトーンの違いが見事でした。

あと芝居の内容とは関係ないですが・・・芳雄さんとの身長差たまらんw

死にたがってたのに生かされたヴィリが、託されて生きることを決意する───

そうだ、生きるって受け取って、託して消えていく。そうして繋いでいくことなんだ・・・ってしみじみ思った。

 

兵士長の高橋努さんは役名もなぜかツトム。北欧風の設定どこいった?w

高橋さんは映像でよくお見かけしますが、舞台で拝見したのは初めてでした。

骨太で繊細で、せつない役どころ。なかなか難しい役だったんじゃないでしょうか。無表情なようで心根の熱い人物像で良かった!

そのツトムが大切に思ってるロキは和田琢磨さん。最初、生田斗真さんかと思っちゃったw

明るくて無邪気で不倫してる兵士(笑)

何が正解かいつも迷ってるけど、その迷いはいつも相手を傷つけたくない、だったり期待に応えたいためだったりするので憎めない。

彼が出てくるところは楽しいシーンが多い印象でした。

 

トル王子と政略結婚させられてるナリコ王女に入山法子さん。

滑舌がんばって~と思うシーンもありましたが凜とした佇まいが美しかったです。

ヴィリの姉で女兵士のリーガンは太田緑ロランスさん。

ジャンヌ・ダルクか?!と思うような見事な女兵士っぷり。りりしくてステキでした。

私も長女なので、リーガンの想いはよくわかります。何かを背負いがちよね長女。うん。

重臣ドーヤネンは石田佳央さん。日和見主義的な重臣かと思えば兵士と飲んでる時はおちゃめで人間くさい、いいおじさんって感じw

人として誠実であろうとするドーヤネンだからこそ、ラストの葛藤がとてもリアルで胸に響きました。

 

そしてそして永久女王デンの若村麻由美さん。ステキだったわ~!

最近では「おちょやん」の山村千鳥師匠が印象的でしたよねw

時代がかった大仰な抑揚のついた台詞の外連味はさすが。

しかしその昔、愛する王の子どもを授かり幸福の絶頂だった頃の、自然体な台詞もイイ!

眠れないトル王子と影踏みして遊ぶシーンは、慈愛あふれる母親の顔が垣間見える。

それだけにその後がよりキッツいんですがね・・・。

私が観た回は声が枯れ気味でしたが、それでもちゃんと聞き取れる。すっごくキレイで迫力あって、とてもステキでした~

 

あとね、衣装もすごく素敵。

そもそも簡素なセットしかない舞台上から、何もかもハケてしまう大ラストはちょっと驚く。

何もないのにヴィリが疾走する草原が見える。芝居の力と私の妄想力すごい!ってなりましたw

 

花が咲く理由をもたないように、虫や魚が生きる意味を探さないように、人が生まれてくることにも、意味なんてない。

ただ人は自分の生が期限付きであることを知識としてもってるから、意味を求めちゃうだけ。

生まれたら生を託されて、生きてまた誰かに託して、自分は消えていく。

生に意味があるのだとしたら、その託し方、受け取り方にこそあるのだと思います。

そんな風に感じて、ラスト大泣きしちゃったお芝居でした!

 

ところで「首切り王子」はトルだけど、「愚かな女」はヴィリだけなのかしら。

愚かな女が愚かさに陥ったのはなぜ?

そこも投げかけられてるように感じた芝居でした。

めちゃめちゃ良かったです!

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